実験室の作業台で固体NMR分光法:まさか冗談でしょ

4th January 2024 | Author: James Sagar

NMRは、学術研究、製薬、ポリマー、電池など、多くの産業分野において重要な分析技術となっています。このような分野でNMRについて考えるとき、多くの人は溶液NMRを思い浮かべて、低分子の有機分子やそれらの混合物が対象となっていることがほとんどです。卓上型NMRについて考える場合はなおさら、有機低分子に焦点が絞られます。実際の固体を卓上型の装置に入れたとして、マジック角回転(MAS, Magic Angle Spinning)を用いた高磁場固体NMRから得られるような有用な情報が得られるとは考えないですよね?

そうです。あなたは正しいです。

しかし、あらゆる固体の分析に、詳細で精密な(高分解能の)MASスペクトルが必要なわけではありません。固体の分析には、卓上型NMR装置とその形状因子(小型であること)が大きなインセンティブとなるアプリケーションがあります。私たちがしなければならないことは、一般的に固体と考えられているものでも、もう少し「液体のような」はたらきをするものを見つけることです。これが当てはまる材料群のひとつに、次世代二次電池用の固体電解質があります。長寿命の全固体電池という至高の目標は、魅力的な展望であり、現在、研究が盛んな分野であることは驚くことではありません。リチウムイオンが移動可能でなければ電解質として不十分であるという事実がありますが、これは卓上型NMRの目的にかなっています。この「移動可能」であることは、リチウムイオンがわずかに 「液体のよう」であることを意味するため、私たちは有用な情報を得られそうです。重要な情報のひとつに、リチウムの移動度があり、これが電解質の伝導率を決定します。これを測定するには、パルス磁場勾配とパルス磁場勾配刺激エコーシーケンス(PFGSTE)を備えたNMR分光計を用いて、リチウムイオンの拡散係数を直接測定します。この用途には、ポリマーからセラミックまで幅広い材料が検討されており、そのため予測されるリチウムの拡散係数や導電率も広範囲に及びます。ポリマー塩の混合物は、10-7 (cm2.s-1) の範囲の高い拡散係数をもつことがありますが、LiPON(オキシ窒化リン酸リチウム, LixPOyNz)のような純粋なポリマー電解質は10-11 の範囲に近く、LLZTO (lithium lanthanum zirconium titanium oxide, Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12) のようなペロブスカイトまたはセラミックまたはガーネット電解質では10-18 の範囲と低くなります。これらの化合物の組成式はLi6PS5Clですが、これには若干のばらつきがあります。

私たちは最近、これらの化合物におけるリチウムの拡散を卓上型NMRを用いて測定することが可能であること、そして高磁場固体NMRの結果と非常によく一致することを示しました。双方の手法を用いて、拡散係数 (5.9±0.7)×10-12 cm2.s-を測定することができました。これは、現在の卓上型NMR分光計で可能な限界に近い値ですが、私たちはNMRスペクトルが必要なのか、それとも拡散データだけで十分なのかという疑問が生じます。もし拡散データさえあればよいというのであれば、従来のラボの作業台に装置を置いたまま、より高いパルス磁場勾配を達成可能な時間領域NMR (TD-NMR) の手法について検討する可能性がでてきます。

卓上型NMRのソリューションについての詳細はこちらのリンクをクリックしてください。


このアプリケーションの開発を成功させる上で、ご協力・貢献いただいたオックスフォード大学材料学部のSir Peter Bruce GroupDr Gregory Reesと同僚の方々に感謝申し上げます。


Dr James Sagar,
Materials Analysis Group Business Manager, Oxford Instruments

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About the Author


James Sagar has been a Strategic Product and Applications Manager in benchtop NMR at Oxford Instruments since January 2019. He joined the company in 2015 as Product Manager for energy dispersive X-ray analysis, looking after the world’s first EDS detector for electron microscopes capable of detecting Li X-rays. Before this, James carried out post-doctoral research at University College London.

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